『Foreign Tongues』全ビデオ解説

The Videos

『Foreign Tongues』では、アルバム収録14曲すべてに公式ビジュアライザーが用意されています。さらに「In The Stars」と「Jealous Lover」にはOfficial Music Videoも制作されており、現在公開されている公式映像は全16本です。

「In The Stars」と「Jealous Lover」のMusic Videoでは、若き日のローリング・ストーンズや、アニャ・テイラー=ジョイ、チャールズ・メルトンらが登場し、それぞれに明確な物語や世界観が描かれています。一方、14本のビジュアライザーは、全編を通して「ダンス」に焦点が当てられています。楽曲の歌詞を映像化するのではなく、それぞれの曲に別のイメージを与えているのが特徴です。

Official Music Videos

In The Stars

Director: François Rousselet
Production: Riff Raff Films
Starring: Odessa A’zion
Mick Double: Luca Arshad
Keith Double: Jonny Weber
Ronnie Double: Tyla Challenger
Band Double: Hot Property

巨大なレコーディング・スタジオを舞台に、若き日のミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッドが登場。Deep Voodooの技術によって3人が1970年代の姿へと変貌し、100人を超えるミュージシャン、シンガー、ダンサーらが入り乱れる大掛かりな映像となっています。その中心で重要な役割を演じているのが、オデッサ・アザイオン。若き日の3人を再現した映像技術だけでなく、彼女を中心に展開する物語性も、このミュージック・ビデオの大きな見どころです。

Jealous Lover

Director: Chris Barrett & Luke Taylor
Starring: Anya Taylor-Joy / Charles Melton
Shot in: Los Angeles

アニャ・テイラー=ジョイとチャールズ・メルトンが主演を務めたミュージック・ビデオ。LAのモーテルを舞台に、二人の関係が次第に緊張を帯びていき、やがてダンスと格闘が入り混じったようなスタイリッシュな映像へと展開していきます。撮影はラーキン・サイプル、振付はウィン・ホームズ。

Official Visualiser

Rough And Twisted

Director: Grajper
Production: FRIEND
Shot in: London

スーツ姿のビジネスマンがスローモーションで体を動かしながら、窮屈な衣装やデスクを脱ぎ捨てていく、解放感とシュールさが入り混じった映像です。同じくGrajper/FRIENDによって制作された「Hit Me In The Head」「Covered In You」「Side Effects」「Back In Your Life」「Beautiful Delilah」と共通するシリーズのひとつです。この6本はいずれもロンドンで撮影されており、『Foreign Tongues』のビジュアライザーの中でもひとつのまとまった映像シリーズとして見ることができます。

In The Stars

Shot in:Marseille

昼間の南仏マルセイユの路地裏の階段を舞台にした映像です。壁一面に描かれたポップな落書きを背景に、若い男女のダンサーが太陽の光を浴びながら息の合った軽快なステップを披露しています。

Jealous Lover

Director / DOP:Billy Zammit
Production:DEEGEE
Dancer:Dimitri Raptis
Shot in:Sydney

シドニーのハーバーブリッジの真下を舞台に、現地のダンサーであるディミトリ・ラプティスが巧みなステップを見せる作品。手持ちカメラで至近距離から追いかけた、臨場感のある映像です。監督・撮影はビリー・ザミット、制作はDEEGEE。

Mr Charm

Shot in: Las Vegas

日暮れ前の石と岩だらけの山の中、カジュアルな姿の女性が自由に身体を動かしています。やがて周囲が暗くなると、遠くにラスベガスの夜景が浮かび上がります。華やかな街とは対照的な荒々しい自然の中で踊る姿が、このビジュアライザーならではの面白さです。

Divine Intervention

Director / DOP:Bosco Cabello
Dancer:Marcos Medina
Shot in:Buenos Aires

ブエノスアイレスのアルシーナ橋を舞台に、現地のダンサーであるマルコス・メディナがエネルギッシュなダンスを披露。監督のボスコ・カベロをはじめとするアルゼンチンの現地クリエイティブチームによって、街のカルチャーが色濃く切り取られた映像です。

Ringing Hollow

Shot in:São Paulo

雨のサンパウロを、ひとりの女性が踊りながら歩き続ける映像。いたるところに鮮やかなストリートアートや壁画が広がり、濡れた路面と相まって、街全体が巨大なキャンバスのように見えます。カメラは彼女の動きを追いながら、雨に濡れたサンパウロの街そのものも印象的に切り取っています。

Never Wanna Lose You

Director / DOP:Lucas Hanns
Dancer:S.Ryota
Shot in:Tokyo

三軒茶屋のレトロな飲食店街「三角地帯」の路地裏で、ダイナミックでエネルギッシュなダンスを披露しているのは日本人ダンサーのS.Ryota。ストーンズのビデオで日本人ダンサーがここまで前面に登場するのは新鮮で、思わず何度も見返してしまいました。カッコいいです。監督のルーカス・ハンスがDOP(撮影監督)も兼任して、ゲリラ感のある生々しくも美しい東京を切り取っています。

Hit Me In The Head

Director: Grajper
Production: FRIEND
Dancer: Watta Zadi
Shot in: London

誰もいない深夜のハンバーガー・ショップで狂気的なソロダンスを披露しているのはワッタ・ザディ。ストーンズの激しいサウンドに呼応するような、キレ味鋭いダイナミックな動きです。

You Know I’m No Good

Director / DOP:Vaibhav Gamare
Production:DEEGEE
Dancer:Shashank
Shot in:Mumbai

ロンドンのビッグ・ベンをモデルにした「ラジャバイ時計塔」前の広場を舞台に、ムンバイのダンサー、シャシャンク・シン・パリハールが躍動するビジュアライザー。現地クリエイターのヴァイバヴ・ガマレが監督・撮影を手掛けています。

Some Of Us

Shot in: Berlin

ベルリン郊外、錆びた鉄骨と無数の落書きに覆われ、独特の荒廃感を漂わせた場所で静かに踊る女性の顔は、最後まではっきりと映りません。ザラついたレトロな映像と夕暮れ時の寂しげな廃墟の景観が余韻を残すビデオです。

Covered In You

Director: Grajper
Production: FRIEND
Dancer: Hannah Mason
Shot in: London

曇り空が広がるロンドンのビル屋上が舞台のビジュアライザーです。ロンドンを拠点に活動するイギリスのコンテンポラリーダンサー、ハンナ・メイソンが出演。街のリアルな空気感の中で、彼女の身体表現が印象に残る作品です。

Side Effects

Director: Grajper
Production: FRIEND
Dancer: Audrey Lam
Shot in: London

煉瓦の壁を背景に、金髪のオードリー・ラムがタバコに火をつけ、煙をくゆらせながら音楽に身を任せて動く姿を捉えた作品。カメラをあまり動かさず、彼女の表情や細かな仕草をじっくりと見せるシンプルな構成に引き込まれます。

Back In Your Life

Director: Grajper
Production: FRIEND
Dancer: Mukeni Nel
Shot in: London

桜の木の下で、プロダンサーのムケニ・ネルが美しい表現を披露するビデオ。最後にピンクの花びらが舞い落ちてくる、印象的でドラマチックな作品です。

Beautiful Delilah

Director: Grajper
Production: FRIEND
Shot in: London

『Foreign Tongues』のアルバムTシャツを着た男の子が、自分の部屋のベッドの上で元気いっぱいに飛び回るビデオです。子どもの無邪気な動きをただ眺めているだけで、不思議と楽しくなってくる面白さがあります。

あとがき

16本の公式映像をすべて観ていて、もうひとつ面白いと感じたのが、Music Videoとビジュアライザーとの距離感です。

「In The Stars」と「Jealous Lover」のMusic Videoには、それぞれ明確な物語や世界観があります。一方、『Foreign Tongues』の14本のビジュアライザーには、そうした関係性がほとんどありません。歌詞の内容を映像化しているわけでもなく、必ずしも曲調に合わせているわけでもない。

それでも、観ていると不思議と引き込まれます。その理由のひとつは、世界各地の街と、そこに暮らす人々の身体の動きなのかもしれません。東京、ラスベガス、ブエノスアイレス、ムンバイ、ベルリン、マルセイユ、シドニー……。それぞれの街の空気と、そこで踊る人々の姿が、楽曲に歌詞とは別のイメージを与えています。

曲を映像で説明するのではなく、曲を別の場所へ連れていく。そんなビジュアライザーの作り方なのかもしれません。

これまでのストーンズの公式ビジュアライザーには、サイケデリックなグラフィックやアニメーションを使った作品も数多くありました。それらが「音楽をグラフィックで視覚化する」ものだったとすれば、『Foreign Tongues』の14本は、世界各地の街と、そこで動く人間の身体によって音楽を視覚化した作品と言えるのかもしれません。