「Mr Charm」制作の舞台裏

Variety「Behind the Song」

米エンタメ誌 Variety の公式インタビュー企画「Behind the Song」。ミックとプロデューサーのアンドリュー・ワットがミキシングボードを前に、アルバム『Foreign Tongues』収録曲「Mr Charm」のマルチトラック音源を実際に再生しながら、楽曲の背景と、緻密な音作りの舞台裏を語っています。

1. 楽曲の原点とキース・リチャーズの「仕事」

  • 最初のアイデア:元々はミックがエレキギターでリフを弾き、キーボードのマット・クリフォードに4つ打ちのドラムビートを打ち込んでもらったデモが原点でした。
  • キースの魔法:ミックがその初期のデモをキースに聴かせたところ、キースが加えたベースラインとリフによって、曲の中心となるグルーヴが生まれました。「キースが曲を何倍も良くしてくれた。デモに執着せずにメンバーに委ねて、結果が良ければそれでいい。それこそが彼の仕事だ。」とミックは強い信頼関係を語っています。

2. 「1978年」の空気感を纏う一発録りのライブ感

  • 生きたセッション:ストーンズはテープを回したまま何度も演奏を続けるライブ録音スタイルを今も貫いています。曲の冒頭にはドラマーのスティーヴ・ジョーダンが「(テープは)回ってる?」と確認する生々しい声がそのまま残されています。
  • ポツリと漏らした「1978年」:動画の11分8秒頃、キースとロニーのギターワークを聴きながら、ミックは「1978年」と小さく呟きます。その直前、ミックは「素晴らしい演奏をしているが、そこにはやはりオリジナルなものも残したい」と語っています。そして、この『Mr. Charm』に息づくストーンズらしいギターの絡みを表現する言葉として出てきたのが「1978年」でした。『Some Girls』期に確立された、隙間を生かしたキースとロニーのギターワーク。その独特のグルーヴが、現在のストーンズにも受け継がれていることをミック自身が感じ取った瞬間だったのかもしれません。その直後、ミックは「パンクなロックを書いて歪んだ slashing なギターを入れたがる自分」と、スペースを作ることでグルーヴを生み出すキース達とのバランスの妙について語っています。

3. 音への飽くなきこだわりとジミー・ミラーのコンガ

  • カセット録音による歪み:キースはかつての名曲「Street Fighting Man」のような質感を求め、カセット・レコーダーを取り出して音を過激に潰したアコースティックギターをオーバーダビングしました。この歪んだ音が曲のボトムを支えています。
  • ジミー・ミラーのコンガ:サビで美しいB3オルガンを演奏したスティーヴ・ウィンウッドが、ラテンのノリを感じてスタジオで叩き始めたのは、かつてストーンズの黄金期をプロデュースしたジミー・ミラーが所有していたコンガでした(現在はアンドリュー・ワットが手に入れて所有しているもの)。
  • 真のグルーヴ:ウィンウッドがあえてメインのドラムとは異なる位置にアクセントを置くコンガを叩いたところ、驚くほどしなやかなウネリが生まれたため、ミックとアンドリューが「これぞ真のグルーヴだ!」と大絶賛してそのまま採用されました。

4. ミックのマラカス:ボ・ディドリー直系の音楽史

  • ジェローム・グリーン直伝の技:ストーンズのリズムを司るタンバリンやマラカスのパーカッションについて、ミックは重要な歴史を語っています。ミックは、敬愛するリズム&ブルースの巨人ボ・ディドリーのマラカス奏者、ジェローム・グリーンから直接マラカスの振り方を教わったのです。
  • 車内での特訓:かつて、ギグへ移動中のバンの車内、片手に2本ずつのマラカスを持ち、ジェロームが目の前でこう振るんだと実演してミックに叩き込みました。ストーンズの音楽になくてはならないあの独特なマラカスとタンバリンの響きは、この歴史的な直伝の技から生まれており、非常に重要なエピソードです。

5. ボーカルの構築:ハモりとスクリームの真相

  • 女性ボーカルの正体:サビに圧倒的な高揚感を加えているのは、女性シンガーのナアライ・ジェイコブズです。アルバムに女性ボーカルを入れるのは、ストーンズらしくない印象にならないか懸念していましたが、聴いた瞬間に機能すると確信。「あえて少しルーズに崩したストーンズらしいハーモニー」を展開しています。
  • スクリームの主:アンドリューは曲の終盤の強烈な叫び声を「女性シンガーのものだ」と思い込んでミックスしていましたが、実はミック自身の叫び声だったという面白い勘違いをミックが明かして大笑いしています。
  • ラップ的なダブリング:ヴァース(Aメロ)は非常に文字数が多いため、平坦にならないよう、ラップの手法を取り入れて特定の単語の後ろにボーカルを重ねる(ダブリング・トリプリング)ことで、言葉が飛び出して聴き手に掴みかかるような効果を与えています。また、3番のヴァースではベースを抜き、ブーツィー・コリンズやジェームス・ブラウンのような「頭の1拍目だけを強調する」ファンクの手法で音を組み立てています。

ちなみに…

「1978年」というミックの一言には、個人的にも特別な感慨がありました。というのも、このインタビューを確認する直前まで、私は木村さんと一緒に1978年に起きた「アナハイム靴事件」の真相を追いかけていたからです。当時のライブの出来事を調べる中で向き合っていた1978年という時代が、今度はミック自身の口から、新曲『Mr. Charm』のサウンドを語る場面で突然登場したのです。

もちろん、ミックが語った1978年はライブの事件ではなく、『Some Girls』期のストーンズが持っていたギターの絡みやグルーヴについての記憶でした。しかし、長年ストーンズを追い続けている身としては、過去の歴史を掘り下げていたタイミングで、現在のミックが同じ時代を振り返ったことに、不思議な縁を感じる瞬間でした。