『Foreign Tongues』全曲解説

全曲解説
  1. Rough And Twisted (Mick Jagger, Keith Richards) – 4:40
  2. In The Stars (Mick Jagger, Keith Richards) – 4:13
  3. Jealous Lover (Mick Jagger, Keith Richards) – 3:50
  4. Mr Charm (Mick Jagger, Keith Richards) – 4:34
  5. Divine Intervention (Mick Jagger, Keith Richards) – 4:46
  6. Ringing Hollow (Mick Jagger, Keith Richards) – 5:18
  7. Never Wanna Lose You (Mick Jagger, Keith Richards, Matt Clifford) – 4:31
  8. Hit Me In The Head (Mick Jagger, Keith Richards) – 2:57
  9. You Know I’m No Good (Amy Winehouse) – 4:54
  10. Some Of Us (Mick Jagger, Keith Richards) – 4:01
  11. Covered In You (Mick Jagger, Keith Richards, Matt Clifford) – 4:32
  12. Side Effects (Mick Jagger, Keith Richards, Andrew Watt) – 4:35
  13. Back In Your Life (Mick Jagger, Keith Richards, Andrew Watt) – 6:13
  14. Beautiful Deliah (Chuck Berry) – 3:29
  15. Bad Luck Hideaway (Bonus Track) (Mick Jagger, Keith Richards) – 3:50
Foreign Tongues Silver

2026年7月10日に世界同時発売を迎えた、ストーンズの待望の新作アルバム『Foreign Tongues』。5月の発表当初から情報が小出しに提供され、世界中のファンやコレクターの間で憶測と期待が飛び交っていましたが、ついにその全貌が明らかになりました。本作のリリースに際しては、ロンドンのテムズ川上空で巨大なベロ・マークを描くドローンによる光のショーが催されるなど、世界的なお祭り騒ぎとなっています。

アルバムは全14曲(配信限定盤はボーナストラックを含む全15曲)を収録。プロデューサーは前作『Hackney Diamonds』同様にアンドリューが務め、ダリル・ジョーンズ、マット・クリフォード、スティーヴ・ジョーダンといった近年のツアーを支える主要メンバーが鉄壁のアンサンブルを聴かせてくれます。さらに生前のチャーリーが叩いた貴重なドラムトラックが収録されているほか、スティーブ・ウィンウッド、ポール・マッカートニー、ロバート・スミス、チャド・スミスといった豪華なゲスト陣がそれぞれの楽曲に多彩な色を添えているのも大きな聴きどころです。

この傑作が生まれたレコーディングは、西ロンドンにあるメトロポリス・スタジオを使い、わずか4週間という驚異的なスピードでまとめ上げられました。ミックはこの濃密だったスタジオワークを振り返り、次のように語っています。

「今回の部屋でレコーディングしたのは初めてだった。かなり狭かった。十分な広さではあるが、巨大ではなかった。視線を動かさなくても、みんなが見えるんだ。誰が何をしているのか、誰が何を考えているかがはっきりと分かった。あの部屋は私たちにとって本当にうまくいった。音響も本当に良かった。全員の情熱がダイレクトに部屋の中に満ちていくのを感じられたよ」

この親密で濃密な空間だからこそ生み出された、現在の彼らにしか鳴らせない瑞々しいスリルと熱量が、アルバムの全編にわたって見事にパッケージされています。

1. Rough And Twisted

2026年4月11日に、かつてバンドがシークレット・ギグなどで使用していた変名「ザ・コックローチズ(The Cockroaches)」名義で、1,000枚限定の12インチ・ホワイト・レーベル・アナログ盤として先行リリースされた曲です。5月5日にアルバムのリード・シングル「In the Stars」と共にデジタル配信が始まり、記念すべきアルバムの幕開けを飾るナンバーとなりました。

サウンド面では、キースによる歪んだ伝統的なギター・リフが特徴的なダーティ・ブルース・ロック調の楽曲です。ジョーダンの重くタイトなドラミングが骨太なグルーヴを支えるなか、フェイセズの名曲「Stay with Me」のレコーディングで使用されたものと同じ、ゼマティスのギターによるロニーの鮮やかなスライド・ギターが全面的にフィーチャーされています。

歌詞には「Rough and twisted road(荒れてねじれた道)」をガイドして欲しいと願う内容が含まれており、プエルトリコ、ミシシッピ、シチリア、ローマといった世界各地の地名が登場します。これまでのバンドの長い道のりや人生の変遷を旅になぞらえ、その黄昏時において進むべき道を模索するような、アルバム全体のトーンを決定づける奥深いオープニング・トラックに仕上がっています。

Mick Jagger: Vocals, Harmonica, Background Vocals, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar, Electric Bass
Steve Jordan: Drums
Ben Waters: Piano
James King: Tenor Saxophone
Matt Clifford: Piano, Organ
Andrew Watt: Background Vocals, Electric Guitar

2. In The Stars

アルバムのリード・シングル。5月5日にデジタル配信が開始され、5月15日には「Rough And Twisted」とカップリングでフィジカル盤(CD シングル、7インチと10インチのアナログ・シングル)がリリースされました。

ストーンズらしいキレのあるギター・リフを特徴としながらも、コーラス(サビ)の展開が印象的な曲です。「It’s in the stars, it’s our destiny(それは星に記されている、僕らの運命なんだ)」というフレーズに象徴されるように、世界の不確かさの中で、自分たちのつながりや道筋を信じる前向きなメッセージが込められています。

フィジカル・リリースの前日(5月14日)に公開されたミュージック・ビデオは、女優オデッサ・アザイオンをフィーチャーし、アメリカのVFX/AIスタジオ「Deep Voodoo」のディープフェイク技術を用いて制作されました。1970年代の頃に若返ったミック、キース、ロニーの演奏シーンは物議を呼んでいます。

Mick Jagger: Vocals, Backing Vocals, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Backing Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar, Electric Bass
Steve Jordan: Drums
Benmont Tench: Organ
Matt Clifford: Piano
Andrew Watt: Electric Guitar, Backing Vocals, Percussion

3. Jealous Lover

アルバムからの2枚目の先行シングルとして6月26日にリリースされました。ミックのファルセットを軸に、ソウルフルなR&Bのグルーヴを取り入れた楽曲です。スティーヴ・ウィンウッドがローズ・ピアノとオルガンで参加しています。当初アンドリュー・ワットはミックがピアノを弾けばいいと提案しましたが、ミックは歌いながらでは無理と判断。そこで「ソウル・ピアノが上手いのは誰だろう?」と考えたとき、ウィンウッドのことが頭に浮かんだとのことです。

ウィンウッドは今作において、「Rough And Twisted」「In The Stars」「Hit Me In The Head」「Covered In You」「Beautiful Deliah」を除く全9曲に参加しており、アルバムの鍵盤サウンドの要として多大な貢献をしていますが、その贅沢な共演の幕開けとなるのがこの曲です。

繊細なギターの掛け合いも聴きどころの一つです。左右に広くパンされた2台のギターがお互いのリック、リフ、コードに絡み合うように交差していくのはかなりスリリングです。最近キースが語っていた「古代から続く織物(an ancient form of weaving)」と称したギター・アプローチはまさにこのようなプレイを指しているのでしょう。

アニャ・テイラー=ジョイとチャールズ・メルトンが主演し、クリス・バレット&ルーク・タイラーのコンビが監督を務めたミュージック・ヴィデオが公開されました。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals
Keith Richards: Electric Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums, Percussion
Andrew Watt: Acoustic Guitar, Electric Guitar, Synthesizers, Piano
Darryl Jones: Bass
Steve Winwood: Rhodes, Organ
Matt Clifford: Synthesizers

4. Mr Charm

アルバムのなかでも、現代的なダンスビートとバンドの伝統的なロックサウンドの融合が目を引くナンバーです。

ベースを支えるのは、身体を揺さぶるグルーヴィーな4つ打ち(four-on-the-floor)のビート。ミック自身が「今まで聞いたことがないストーンズになっているかもしれない」と語る通り、ヴァースではミックがラップ調のボーカルで「Mr. Charm」というフレーズを軽快に連呼します。しかし、中盤に差し掛かると一転して、ストーンズらしい王道のロックなコーラスへと展開していくのが特徴です。ミックは曲作りについて「自分でフレーズを何度も繰り返せることに気づき、そこからユーモラスな要素をたくさん詰め込んでいった」と明かしています。

歌詞の面では、現代の社会風刺を交えたユーモアのある内容として捉えられています。特に話題なのが、世界初の兆万長者であるイーロン・マスクを「狂気の富豪、マスク氏」として登場させている点です。

曲中では、愛する相手に自分の魅力をアピールするミックが、「マスク氏と一緒に宇宙へ飛び立つよりも、自分と過ごす夜の方が断然良い」と歌い上げます。海外メディアのレビューでは「大統領の取り巻きを皮肉った政治パロディ」としても読み解かれていますが、根底にあるのはミック流のお茶目な掛け合いです。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Percussion, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Acoustic Guitar, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar, Background Vocals
Steve Jordan: Drums, Percussion
Darryl Jones: Bass
Steve Winwood: Organ
Naarai Jacobs: Background Vocals

5. Divine Intervention

2枚目の先行シングル「Jealous Lover」のカップリング曲としてリリースされました。ミックは億万長者たちが「空の隠れ家」へ逃げ込む一方で、他の人々はサッカー観戦をしながら何事もなかったかのように日常を続けるという、世界の終末を思い描いた歌詞を綴っています。「Star Star」や「Rough Justice」を彷彿させるストーンズが得意とするエネルギッシュでアップビートなロックナンバーです。

本作は、ザ・キュアーのロバート・スミスがギターで参加していることでも話題を集めています。プロデューサーのアンドリューがミックの歌入れ日に狙いを定めてスタジオへ呼び出したことでこの共演が実現したと思われます。ロバート自身は当初オファーを断っており、スタジオでの交流のなかで急遽レコーディングに参加することになったという経緯があります。

実際の楽曲内では、ギター・ソロはロニーが担当していることもあり、ロバートのプレイはそれほど前面には押し出されていません。ですが、サビ(コーラス部分)のバックに耳を澄ませると、彼が刻んだザ・キュアー流のゴシックな世界観を感じさせる、きらびやかな「高音部のアルペジオ」を確認することができます。

曲の後半にはサックス奏者のジェイムズ・キングやトランペット奏者のロン・ブレイクによるホーン・セクションが加わり、アンドリューによる現代的で力強いプロダクションが光る仕上がりになっています。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Percussion, Acoustic Guitar, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Andrew Watt: Synthesizers, Background Vocals
Darryl Jones: Bass
Robert Smith: Electric Guitar
Steve Winwood: Piano, Organ
James King: Tenor Saxophone, Alto Saxophone
Ron Blake: Trumpet

6. Ringing Hollow

ストーンズが得意とするカントリー・ロック調のナンバーです。ミックによるアコースティック・ギターの響きを土台に、キースとロニーのエレクトリック・ギターが絡み合い、そこにウィンウッドの味わい深いピアノとオルガンが重なることで、ルーツ・ミュージック特有のコクと叙情的なサウンドの厚みを生み出しています。特定の政権への批判に留まらず、彼らの根底にあるアメリカン・ミュージックへの愛着と、現在の複雑な社会情勢に対する諦念が、この豊潤なアンサンブルのなかに絶妙なバランスで同居しています。

「ドレスに破れ目があると、自由の女神はあまり美しく見えない」と歌われる甘いカントリー・バラードですが、ありきたりなラブソングのように見せかけ、よく聴くと、実はアメリカという概念へのラブレターであり、アメリカがどうなってしまったのかを嘆く歌だと気づきます。歌詞の面では、ミックとキースが「現代のアメリカという国家に対する、自分たちの変化していく関係性」を綴った告白的な内容であることが明かされています。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Acoustic Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Darryl Jones: Bass
Steve Winwood: Organ, Piano

7. Never Wanna Lose You

「Mr Charm」同様に4つ打ちのダンス・グルーヴが心地よいナンバーですが、こちらの方がよりディスコのビートが強調されています。「ディスコ風の切ない失恋ソング(disco heartbreakers)」とも評されるこの楽曲は、アルバムのなかでもストーンズの現代的なポップ・アプローチの側面を強く印象付ける仕上がりです。

本作には、5曲目に続いてザ・キュアーのロバート・スミスがシンセサイザーとバッキング・ボーカルで参加しています。全体が激しいレイヴ風のナンバーに仕上がっていることもあり、ロバートのバッキング・ボーカルは音の層の奥深くに埋もれており、はっきりと認識するのは難しいバランスです。シンセサイザーも前面に出るのではなく、楽曲の背景に質感や空気感を加える隠し味として機能しています。

また、ブルーノ・マーズがカウベルでクレジットされていることも話題です。ストーンズとスタジオで楽曲を聴いていたブルーノ・マーズが、「完璧だけど、カウベルはどこ?」と指摘したことから急遽追加が決まり、その場で彼自身が演奏を担当しました。ただし、音量としてはかなり控えめにミックスされており、英『NME』誌のレビューでは「聴こえないほどのカウベルのカメオ出演(inaudible cowbell cameo)」と評されています。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Percussion, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Darryl Jones: Bass
Andrew Watt: Background Vocals, Synthesizers
Robert Smith: Background Vocals, Synthesizers
Steve Winwood: Rhodes
Bruno Mars: Cowbell

8. Hit Me In The Head

2019年初頭にロサンゼルスのヘンソン・レコーディング・スタジオで行われた、初期のランスルー(試奏)セッションの音源をベースに制作された楽曲です。ミックは今作について「すごく速い、パンク・ロック・ナンバー」だと語っています。

最大のポイントは生前のチャーリー・ワッツがドラムを叩いている点です。この2019年のLAセッションからは、前作アルバム『Hackney Diamonds』に収録された「Mess It Up」と「Live By The Sword」の2曲も生まれており、本作はその系譜に連なる貴重な未発表セッション音源の蔵出しと言えます。

プロデューサーのアンドリューがベースとパーカッションを担当し、現代的なエッジを加えつつも、チャーリーのタイトなドラミングとストーンズの生々しいパンク・エナジーがストレートに味わえる、3分に満たない疾走感あふれる仕上がりです。

Mick Jagger: Vocals, Harmonica, Background Vocals, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Piano, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar
Charlie Watts: Drums
Andrew Watt: Bass, Percussion

9. You Know I’m No Good

エイミー・ワインハウスが2006年のアルバム『Back to Black』で発表した楽曲のカヴァーです。オリジナル版はリズム隊が心地よく響くダークでジャジーなソウル・ミュージックでしたが、今作ではジョーダンによる力強いドラミングが楽曲を牽引し、よりダイナミックなグルーヴを生み出しています。

ミックはオリジナルと同じDマイナーのキーのまま、自身のハーモニカを大胆にフィーチャーしたアレンジで聴かせています。ミックは今作の仕上がりについて「元々はホーンのパートだったと思うんだけど、幸運なことにそれがハーモニカに本当にぴったりフィットしたんだ。まるで最初からハーモニカのために書かれたパートであるかのように。この曲はマイナーキーなんだけど、マイナーキーのハーモニカというのは、『Miss You』や、リトル・ウォルターがマイナーキーでやっているインストゥルメンタル曲みたいに、ちょっと特別なものなんだ。少し違う雰囲気があって、ある意味より感情に訴えかけるものになるんだ」と語っています。その言葉通り、楽曲のエンディング近くで激しく吹き鳴らされるミックのハーモニカ・ソロが最大の聴きどころです。

アレンジ面では、ウィンウッドのオルガンやジェームズ・キングらの管楽器セクションがバックを支え、ストーンズ流のブルース色豊かなソウル・ナンバーへと見事に昇華されています。

Mick Jagger: Vocals, Harmonica, Background Vocals
Keith Richards: Electric Guitar, Acoustic Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums, Percussion
Darryl Jones: Bass
Andrew Watt: Electric Guitar, Piano, Background Vocals
Matt Clifford: Rhodes
Steve Winwood: Organ
James King: Tenor Saxophone, Baritone Saxophone
Ron Blake: Trumpet

10. Some Of Us

キースがリード・ボーカルを担当するバラード・ナンバーです。この楽曲は、1985年の『Dirty Work』セッション時に録音されていた未発表トラック「Some Of Us Are On Our Knees」をベースに新たなアレンジを施したもので、ミックとキースによる本格的なデュエットがフィーチャーされています。二人がここまで対等に声を分け合うのは、1976年の名曲「Memory Motel」以来のことです。

かつてブートレグなどで聴くことができた初期のラフな音源と比較すると、プロダクションの大幅な進化によって楽曲としての完成度は格段に向上しています。この手の哀愁を帯びたバラードにおけるキースのボーカル表現は非常に味わい深く、ミックのバッキング・ボーカルとの美しい対比を描き出しています。

アレンジ面では、ウィンウッドの情感豊かなピアノやベンモント・テンチのオルガンがバックを支え、アルバム後半のハイライトとなる厳かなソウル・バラードへと昇華されています。

デモ音源の「Some Of Us Are On Our Knees」は以下で聴くことができます。

Keith Richards: Vocals, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Mick Jagger: Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar, Background Vocals
Steve Jordan: Drums
Darryl Jones: Bass
Andrew Watt: Background Vocals
Steve Winwood: Piano
Benmont Tench: Organ

11. Covered In You

ポール・マッカートニーがベースで参加していることで大きな話題を呼んでいるナンバーです。ポールがストーンズの楽曲でベースを弾くのは、前作アルバム『Hackney Diamonds』に収録された「Bite My Head Off」に続いてこれが2曲目となります。ポールは今回のセッションについて「スタジオでの一日の後、人々は『どうだった?』と聞きました。とても素晴らしかったです。だって、俺はストーンズのセッションマンだったんだ」と、当時の充実した現場の様子を振り返っています。

また、今作にはリリースにまつわる興味深い逸話があります。以前、リー・オスカー(Lee Oskar)からミックのモデルとなるハーモニカが発売された際、公式のプロモーションとして短いビデオ映像が公開されましたが、そのバックで流されていたトラックこそが本作の初期バージョンでした。映像の最後の最後にミックの歌声が少し聴こえる構成になっており、ファンの間でも当時から注目を集めていた楽曲です。

今回アルバムで初めてフルバージョンが公開されたことにより、楽曲全体を通して展開されるミックの素晴らしいラップ調のボーカルが明らかになりました。ポールの弾むようなベース・ラインと、アンドリューによる現代的なエッジの効いたパーカッション、そしてミックのブルース・ハーモニカと切れ味鋭い語り口が絶妙に融合した、アルバム後半の聴きどころの一つです。

Mick Jagger: Vocals, Harmonica, Background Vocals, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Paul McCartney: Bass
Andrew Watt: Electric Guitar, Percussion
Matt Clifford: Rhodes, Synthesizers

12. Side Effects

女性への依存的な渇望を、ドラッグの離脱症状(フラッシュバック、寝汗、気分の乱高下)になぞらえて描いたダークなナンバーです。作中ではミックが「静脈に入れるものすべてに代償が伴う」「タバコを辞めるよりキツい!」と絶叫しており、1966年の名曲「マザーズ・リトル・ヘルパー」を彷彿とさせる、薬物の危険性やリスクというテーマが深く刻み込まれています。

曲調は、これまでのストーンズの王道ロックとは一線を画す、90年代風のサイケデリック・ダンス・ロックやインダストリアルな要素を取り入れた重厚でスリリングな仕上がりです。サウンドの核となっているのはロニーによるイントロからのギター・リフで、一筋縄ではいかない変わったフレーズ展開が楽曲に独特の面白い緊張感を与えています。

この変則的なリフのループに、アンドリューが手掛ける空間系のシンセサイザーや重いパーカッション、そしてウィンウッドの鋭い鍵盤が絡み合うことで、ミックの緊迫感あふれるボーカルを効果的に引き立てています。

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Percussion
Keith Richards: Electric Guitar, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Darryl Jones: Bass
Andrew Watt: Acoustic Guitar, Percussion, Synthesizers, Background Vocals
Steve Winwood: Organ, Piano

13. Back In Your Life

本アルバムにおいて最も長いランニングタイムを持つ、典型的なスタジアム・ロック・バラードです。「Angie」や「Fool To Cry」といった歴代の名バラードの系譜を継ぐ、非常にメロディアスで一般受けしやすい王道の曲調に仕上がっています。歌詞の面では、人生の後半において過去に失った愛や大切な人々へのノスタルジーを綴り、再び巡り合うことを願うエモーショナルな内容となっています。

サウンドの最大の聴きどころは、終盤にかけてドラマチックに展開するロニーのギター・ソロです。ロニーはこのソロについて、ブライアン・ウィルソンが亡くなった当日にスタジオで録音したと語っています。その数日前にはスライ・ストーンの訃報もあったことから、相次ぐ巨星たちの死による深い悲しみと感情が自身のギター・プレイに色濃く投影されたと心情を吐露しています。

レコーディング段階では9分にも及んだという魂のソロは、最終的に短く編集されましたが、全編を通じてウィンウッドによるピアノとオルガン、さらにジェームズ・キングらの艶やかなホーン・セクションが美しく重なり合い、アルバム全体のクライマックスにふさわしい壮大なアンサンブルを構築しています。

Mick Jagger: Vocals
Keith Richards: Electric Guitar
Ronnie Wood: Electric Guitar
Steve Jordan: Drums
Darryl Jones: Bass
Andrew Watt: Electric Guitar, Acoustic Guitar, Percussion, Background Vocals
Steve Winwood: Organ, Piano
James King: Tenor Saxophone, Alto Saxophone
Ron Blake: Trumpet, Flugelhorn
Naarai Jacobs: Background Vocals
Porcha Clay: Background Vocals

14. Beautiful Delila

キースにとっては、ストーンズ結成前の前身バンド「Little Boy Blue and the Blue Boys」の頃から演奏していた原点と言える楽曲で、1964年の初期演奏バージョンはBBC音源集『On Air』でも聴くことができます。

今作の最大の特徴は、一般的なロックンロール調ではなく、フレッド・マクダウェルの代表曲「Drop Down Mama」と同じコード進行であることに着目し、デルタ・ブルース・スタイルへと大胆にアレンジされている点です。マクダウェルが12弦ギターの使い手であったことに敬意を表し、ミックとキースの二人だけで12弦ギターを持ち、リボンマイク1本を挟んで一発録りでレコーディングが行われました。アルバムに採用されたのはテイク2の音源です。ワンマイクでの一発録りという伝統的な手法をとっているため、ヘッドホンで聴くと実質的なモノラル録音のような生々しいセンター定位の音像を体感できます。

このアコースティックなブルース・アンサンブルのなかで、コンサート・バスドラムを叩いてシンプルなリズムを添えているのは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスです。

ストーンズが最後の曲でチャック・ベリーへと回帰しただけでなく、その精神がさらに深いデルタ・ブルースの源流にまで及んでいたことを証明する、極めて象徴的なクロージング・ナンバーとなっています。

Mick Jagger: Vocals, Electric Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Vocals
Chad Smith: Bass Drum

15. Beautiful Delilah

Bad Luck Hideaway (Bonus Track) – 3:50 (Mick Jagger, Keith Richards)

Mick Jagger: Vocals, Background Vocals, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Keith Richards: Electric Guitar, Bass, Vocals, Background Vocals
Ronnie Wood: Electric Guitar
Charlie Watts: Drums
Andrew Watt: Background Vocals
Benmont Tench: Organ, Piano
Matt Clifford: Wurlitzer Piano