2026年7月10日にリリースされたザ・ローリング・ストーンズのアルバム『Foreign Tongues』は、前作『Hackney Diamonds』(2023年)と、プロモーション手法からアルバムの楽曲構成にいたるまで、多くの類似性を持っています。
まるで最初から「兄弟アルバム」として構想されていたかのように見える、一連のプロモーションや楽曲構成における強力な連動性についてまとめました。
1. プロモーション展開の共通点(時系列)
① 発売の数ヶ月前:正体を隠した「偽装広告」によるティザー
- 『Hackney Diamonds』
イギリスの地元紙に、バンドのロゴや過去の曲名を散りばめた「架空のガラス修理業者」の広告をひっそりと掲載し、ファンの間で話題を呼びました。 - 『Foreign Tongues』
彼らが過去にシークレットライブ等で使用していた偽名「ザ・コックローチズ(The Cockroaches)」名義のポスターをロンドンに突如掲出。さらに1,000枚限定の正体不明なアナログ盤シングルをゲリラ的に流通させ、ネット上での憶測を呼び起こしました。
② 発売の数週間前:世界規模の「屋外ロゴ広告」
- 『Hackney Diamonds』
ニューヨーク、ロンドン、東京といった世界主要都市の建造物に、3Dプロジェクションマッピング等を用いておなじみの「リップス&タン」ロゴを投影しました。 - 『Foreign Tongues』
アルバムタイトルにちなみ、世界各地のビルボードへ様々な言語(フランス語、日本語、ポーランド語など)でタイトルが表記されたロゴ広告を展開しました。
③ 発売直前:プレミアムな「サプライズ生演奏」の敢行
どちらの作品も、アルバム発売直前のタイミングで、限られた観客だけを招いた至近距離でのサプライズ演奏を行っています。
- 『Hackney Diamonds』
アルバム発売前夜にあたる2023年10月19日、ニューヨークのクラブ「Racket NYC」でサプライズギグを開催しました。新曲のほか、レディー・ガガが飛び入り参加した「Sweet Sounds of Heaven」などが演奏されました。 - 『Foreign Tongues』
アルバム発売2日前にあたる2026年7月8日、ロンドンの「セント・クレメント・ホテル」で開催されたプレミア試聴会にて、完全サプライズのアコースティック・ミニライブが披露されました。キース・リチャーズは不在でしたが、ミック・ジャガー、ロニー・ウッド、マット・クリフォードの編成で全3曲が演奏されました。
1曲目に新曲「Ringing Hollow」を世界初披露し、2曲目に「Dead Flowers」、ラストの3曲目にはシャネル・ヘインズが飛び入り参加した「You Can’t Always Get What You Want」が演奏されました。
2. アルバム構造・曲順の共通点
プロデューサーにアンドリュー・ワットを起用し、豪華なゲスト陣を迎えるといった制作面の基本方針に加え、アルバムの楽曲構成にも明確なパターンが見られます。
① アルバム中盤〜後半:ミックが支える「感動的なキース・バラード」
どちらの作品にも、キース・リチャーズがメインボーカルをとる、胸を打つような切ないバラード曲が収録されています。さらに、通常はあまり見られない「ミック・ジャガーによるバッキングボーカル(寄り添うようなバックアップ)」が施されている点も共通しています。
- 『Hackney Diamonds』:Tell Me Straight(9曲目)
キースが脆く傷つきやすい感情を歌い上げるスローバラードです。ミックが背後で繊細なコーラスを重ね、楽曲の切なさを引き立てています。 - 『Foreign Tongues』:Some of Us(10曲目)
強烈なギターリフで知られるキースが、自身のワイルドなイメージを一瞬横に置き、ひざまずくような無防備な一面を見せる感動的なバラードです。こちらもミックの貴重なバックアップボーカルが加わることで、2人の絆が感じられる仕上がりになっています。
② ラスト一曲前:大作バラードの配置
アルバム全体のクライマックスとなる、長尺のエモーショナルなバラードが最後から2曲目に配置されています。
- 『Hackney Diamonds』:Sweet Sounds of Heaven(11曲目)
レディー・ガガとスティーヴィー・ワンダーを迎えた、7分を超える壮大なソウル・ゴスペルバラードです。 - 『Foreign Tongues』:Back In Your Life(13曲目)
現代的なストリングスのアレンジを施した、6分を超える大作バラードです。
③ ラスト(最終曲):バンドのルーツである楽曲での締めくくり
大きなバラードの直後となる最終曲には、彼らの音楽的ルーツであるアーティストのカバー曲が選ばれています。
- 『Hackney Diamonds』:Rolling Stone Blues(12曲目)
バンド名の由来となった、マディ・ウォーターズのブルース・カバーです。 - 『Foreign Tongues』:Beautiful Delilah(14曲目)
初期のライブやセッションでも好んで演奏されていた、チャック・ベリーのデルタ・ブルース・スタイルでのカバーです。
※制作陣の補足
『Foreign Tongues』ではベースのダリル・ジョーンズがレコーディングに復帰していますが、前作『Hackney Diamonds』ではスケジュール都合によりダリルは不参加でした。前作では曲ごとにキース、ロニー、アンドリュー・ワット、ポール・マッカートニー、ビル・ワイマンらがベースを担当しました。
まとめ
このように、2020年代のローリング・ストーンズは、現代的なバズマーケティングやスタジオ技術を取り入れつつも、ミックがキースのバラードを支える構造や、発売直前の生演奏、そしてアルバムの締めくくり方に「バンドの原点や2人の絆」を必ず提示する手法をとっています。この一連の構成美こそが、近年のストーンズ作品を特徴づける大きな要素と言えると思います。

