Between the Buttons (UK)

Between the Buttons (UK)
  1. Yesterday’s Papers
  2. My Obsession
  3. Back Street Girl
  4. Connection
  5. She Smiled Sweetly
  6. Cool, Calm & Collected
  7. All Sold Out
  8. Please Go Home
  9. Who’s Been Sleeping Here?
  10. Complicated
  11. Miss Amanda Jones
  12. Something Happened To Me Yesterday

Released: 20 January 1967
Producer: Andrew Loog Oldham

Additional Musicians:
Ian Stewart – Piano, Organ
Jack Nitzsche – Piano, Harpsichord
Nick De Caro – Accordion

1967年1月にリリースされた、イギリス本国における5枚目のオリジナル・アルバム『Between the Buttons (UK)』。本作は、前作『Aftermath』に続いて全曲がジャガー/リチャーズのオリジナル曲で占められており、ストーンズ初期の作品の中でも、「最も英国ポップ色の濃いアルバム」と評される傑作です。

結成時のトレードマークだったアメリカン・ブルースやR&Bの要素は意図的に抑えられ、ビートルズやザ・キンクス、ザ・フーといった同世代のロンドン・シーンに呼応するかのようなフォーク・ロックやボードビル風の楽曲、そしてカラフルなアレンジが全編を彩っています。初代マネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムがプロデュースした最後のオリジナル・アルバムでもある本作の全12曲を解説します。

英国ポップへの華麗なる変貌!全収録曲解説

  • Yesterday’s Papers – ミックが当時交際していたクリッシー・シュリンプトンとの関係を反映しているとも言われる、辛辣ながらも非常にキャッチーなナンバー。ブライアンが叩く涼しげなマリンバとハープシコードが、アルバムの「脱ブルース」のトーンを象徴するオープニングトラック。
  • My Obsession – ドライブ感のあるピアノと硬質なドラムが引っ張る、ストーンズ流の変則ガレージロック。洗練されたビートに乗って心地よく弾む1曲。
  • Back Street Girl – アコーディオン(ニック・デ・カロが演奏)を取り入れた、まるでパリのシャンソンやヨーロッパの路地裏を思わせるアコースティックな名曲。ストーンズがアメリカ南部ではなく「ヨーロッパの伝統音楽」へとアプローチした初期を代表する隠れた名曲。
  • Connection – ミックとキースが掛け合うボーカルが印象的なファンに人気の高いストレートなロックナンバー。ツアー中の空港でのトラブルや孤独を歌った歌詞は、ツアー生活の孤独や閉塞感をリアルに描いています。
  • She Smiled Sweetly – ジャック・ニッチェが弾く厳かなハモンドオルガンをフィーチャーした、メランコリックで美しい3拍子のバラード。ミックの優しく語りかけるようなボーカルが、彼らの持つ内省的でナイーブな一面を引き出しています。
  • Cool, Calm & Collected – 1920年代の古き良き英国ボードビル(大衆演劇)やジャグ・バンドの雰囲気を再現したコミカルなトラック。終盤に向かってカズーの音やピアノのテンポがカオスへとなだれ込んでいく、ストーンズ流のサイケデリックな遊び心が満載。
  • All Sold Out – ファズを効かせた不穏なギターリフと、ブライアンのリコーダーの音色が不思議なコントラストを描くナンバー。フォークロックの枠組みを使いつつも、ストーンズらしい刺々しさと気怠さが絶妙に残されています。
  • Please Go Home – ボ・ディドリー・ビートをサイケデリックに歪ませたエネルギッシュな楽曲。ブライアンによる発振器(オーディオ・ジェネレーター)を用いたサイエンス・フィクションのような電子エフェクトが全編で強烈なうねりを上げる、次作への完全な布石となったトラック。
  • Who’s Been Sleeping Here? – ボブ・ディランの『Blonde on Blonde』からの強い影響を感じさせる、哀愁漂うカントリー・フォーク・ロック。ブライアンが吹くブルースハープが、カントリー・フォークらしい旅情的な雰囲気を醸し出しています。
  • Complicated – チャーリー・ワッツのタフなドラミングと、ジャック・ニッチェによるハープシコード(チェンバロ)が融合した、極めてキャッチーなガレージ・ポップ。サビでの呪術的なコーラスワークが頭から離れなくなる中毒性の高い1曲。
  • Miss Amanda Jones – アルバム中で最も従来のストーンズらしい、キースの鋭いカッティングギターが炸裂する直球のロックンロール・ナンバー。当時のロンドンの社交界の有名人をモデルにしたという説もある、スピード感抜群のライブ映えするトラック。
  • Something Happened To Me Yesterday – ミックとキースが交互にボーカルを分け合い、当時の不思議な出来事をユーモラスに描いたとも解釈される、アルバムのラストを飾るミュージックホール風のポップソング。ブラスを大胆に配し、最後はアンドリュー・オールダムによる「夜道の運転には気をつけよう」という架空のラジオ風ナレーションで小粋に幕を閉じます。
💡 凍える寒さの中で生まれた「ボタンの狭間」

本作のアルバム・タイトル『Between the Buttons』や、あのあまりにも有名な「どこか焦点の定まらないメンバーのポートレイト」には、当時のバンドの不穏な空気がそのまま刻まれています。

① タイトルに隠された意味
この一風変わったタイトルは、ドラッグ(錠剤のボタン)の精神的な狭間にいる状態を指すスラングだという説があります。また、キースがタイトルを聞かれた際に「次のアルバムの予定?(正式決定と未定の)ボタンの間(Between the buttons)さ」と答えたことがそのまま採用されたという、初期ストーンズらしい行き当たりばったりのユーモアも隠されています。

② 焦点がボケた「徹夜明け」のジャケット写真
ゲレッド・マンコヴィッツによって撮影されたジャケット写真は、ロンドンのプリムローズ・ヒルで、早朝の非常に冷え込んだ空気の中で撮影されました。

実はメンバー全員がスタジオでの徹夜のレコーディング明けで、疲労の色が濃く残っていました。カメラマンのゲレッドは、その生々しく退廃的な雰囲気をさらに強調するため、レンズにワセリン(Vaseline)を薄く塗り、周囲がサイケデリックに歪んでボケるような視覚効果を狙って撮影しました。

後年、ミックはこのジャケットを「一番気に入っているジャケットの一つ」と語っています。一方、キースは当時を「よく分からない時代だった」と振り返っており、この作品がバンドにとって過渡期にあったことを物語っています。

③ 英国盤からあえて排除された「歴史的2大名曲」
当時のイギリスの音楽界には「シングルとアルバムは別物。一度シングルで売った曲をアルバムに入れてファンに二重に買わせるのは失礼」という美学がありました。

そのため、同時期に録音され、世界中で大ヒットしていた「Let’s Spend The Night Together(夜をぶっとばせ)」と「Ruby Tuesday」の2曲は、この英国盤には一切収録されていません。

ヒット曲に頼らず、アルバム全編をトータルなコンセプトで統一しようとした当時の彼らのトガった姿勢と、激動の1967年の空気感が最も美しく結実したのが、この英国盤『Between the Buttons』なのです。